兵庫県宝塚市の市立中で令和元年6月に、当時2年の女子生徒が校舎4階から転落して重傷を負った事故をめぐり、同市は4月15日、吹奏楽部でトライアングルを担当していた生徒が顧問だった31歳の男性教諭から「廊下で100回たたいてこい」と叱責され、突発的に飛び降りたとする調査報告書を公表しました。
報告書によると、女子生徒は音楽室で合奏の練習をしていたが、音が一定していないとして教諭から「出て行け」と退室を命じられた。教諭は普段から強圧的な指導をしており、恐怖感を抱いていた生徒は「音楽室に戻れない」と感じ、校舎4階から飛び降りた。生徒は重傷を負ったが、駆け付けた教諭に「ごめんなさい」と何度も謝ったようです。報告書は「また叱責されるに違いないという心理的苦痛、絶望と無力感から、逃げ道として突発的に飛び降りた」と結論付けました。
市教委によると、事故後、教諭は病気を理由に長期休暇を取り、昨年4月に別の市立中で復職。同年6月、県教委が停職1カ月の懲戒処分としました。報告書公表を受け、生徒の母親は4月15日、「教諭が軽い処分ですぐ復職し、強い憤りを感じた」とする手記を公表。教諭からはまだ謝罪がないといい、「市教委の対応は表面だけ取りつくろっている」と批判しました。市教委は同日開いた会見で「謝罪のあり方について丁寧に話し合いをしていきたい」と説明した。
森恵実子教育長らが会見!内容
「被害に遭われたお子さま、保護者に心身ともに大きな苦痛を与えましたこと、深くおわびします」
昨年3月にまとまり、いったん非公表とした報告書を、今なぜ公表したか。
「事実や経緯を多くの方に知ってもらい、再発防止につなげるため、報告書は公表する必要があると考えている。しかし当初、保護者から非公表を求められたため差し控えた。昨年8月になり、公表を望む意向が伝えられたため調整を続け、この時期になった」
この元顧問は別の中学校で教えているのか。
「教えている。事故直後から療養休暇などを取得し休んでいたが、昨年4月から復帰している。部活の指導はしていない」
元顧問はどう受け止めているのか。
「威圧的だったと。真摯(しんし)に受け止める、意思疎通をもっと取るべきだった、と反省している」
保護者が不信を抱いている。
「昨年3月に報告書がまとまった際、保護者に謝罪したいと申し出た。しかし『復帰するための謝罪か』と思われたのか、応じていただけなかった。昨年8月以降は、双方の代理人を通じて話し合いを続けている。まだ謝罪は受け入れていただいていない」
この間、昨年9月には別の市立中学で柔道部顧問が部員に重軽傷を負わせる事件が起きた。再発防止の取り組みは十分だったか。
「研修も重ねてきたが、現場の教師らは『人ごと』と感じていたようだ。自分も指導中に、そういうことをする可能性があるという意識が欠けていた。再発防止策を徹底できなかった。アンケートで実態を調べ、クラブ活動のあり方を定めた部活動白書を作成した。顧問任せだった点を反省し、学校内で部活の状況を共有する態勢づくりを進めている」
転落事故の背景が現場の教師たちに伝わっていない。柔道部の事件も部活動中に起きた。公表の遅れが、さらに悪質な事案の発生を招いたのではないか。
「公表に当たっては、保護者の意向を聞かなくてはならない。直接やりとりできない中、代理人を通じて丁寧にやってきた結果として時間がかかった。公表を見送ったことが、柔道部の事件に結びついたとは考えていない」
「まだ受験を控えた中学生だったため、教育的配慮もあった。代理人を通じたやりとりになり、スピーディーにできなかったことには責任を感じている」
副顧問2人が機能していない。柔道部の事件でも副顧問は傍観していた。
「副顧問も積極的にかかわらなくてはならない。生徒との対話を副顧問が担っている面もある。主顧問と副顧問がかみあわないと。検討委員会を立ち上げたので、議論を現場に降ろしていきたい」
指導をどう改善する。
「部活動の顧問たちからは『どんな指導が理にかなっているのか』『根性論ではなく、根拠に基づいた指導をしたい』と声が届いている。思いに応えていきたい。生徒と対話できる関係を築くための取り組みを進める。部活ガイドラインのモデル校を設定し、成果を広げていきたい」
成績至上主義がある。
「顧問の満足のために部活動をするのはおかしい。ただ、生徒が『勝ちたい』『金賞を取りたい』と望むなら、そのために指導するのが教育。勝利を目指すことを単に否定するのではなく、指導に結びつくという教育的意義があるかどうかだ。生徒ファーストで考える」
今回の件を受け、市教委は昨年7月、生徒の命に関わる場合の処分基準を見直すよう県教委に要望している。